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はじめに
【概要説明】 S3 Glacierとは?
Amazon S3 Glacierは、Amazon Web Services(AWS)が提供する低コストのクラウドストレージサービスで、主に長期保存データのアーカイブを目的としています。
このサービスは、データアクセス頻度が低いもの、例えばバックアップデータや法的な要件に基づくデータ保持に適しています。
企業や個人が膨大なデータを低コストで安全に保存するために、S3 Glacierは非常に有効なソリューションです。
S3 Glacierの最大の特徴は、低コストでありながら信頼性が高い長期ストレージを提供することです。
データを保存しておくだけであれば、1GBあたりのコストが非常に安く抑えられるため、アーカイブやバックアップに理想的な選択肢となります。
AWS S3 StandardとGlacierの違いは、そのストレージの目的と利用シナリオにあります。
特徴 | S3 Standard | S3 Glacier |
---|---|---|
ストレージ目的 | 頻繁にアクセスされるデータを保存する | 長期間アクセスされないアーカイブデータの保存 |
アクセス頻度 | 高頻度アクセス用 | 低頻度またはほとんどアクセスしないデータ用 |
データアクセス時間 | ミリ秒単位のアクセス(非常に高速) | 取り出しに数分〜数時間かかる |
コスト | 高コスト(標準的なクラウドストレージ料金) | 低コスト(アーカイブ向けの非常に安価な料金) |
取り出しオプション | 即時アクセス可能 | 取り出し時間に応じた3つのオプション(数分〜数時間) |
データ保存期間 | 短期間または長期間の保存に適している | 長期間保存に適している(最低90日保存が推奨) |
耐久性 | 99.999999999%(11 9s)の高耐久性 | 99.999999999%(11 9s)の高耐久性 |
可用性 | 99.99%の可用性 | 低い可用性(アクセス時に遅延が発生する) |
ユースケース | アプリケーションデータ、静的ウェブコンテンツ、バックアップ | 法的アーカイブ、バックアップ、ログファイル |
データレプリケーション | S3内での自動レプリケーションがサポートされている | データはS3 Standardと同様にレプリケーションされる |
ライフサイクル統合 | S3ライフサイクルポリシーでGlacierに自動移行可能 | S3ライフサイクルポリシーでStandardから自動移行可能 |
S3 Standardは主に頻繁にアクセスされるデータに最適で、低レイテンシと高い可用性を誇りますが、S3 Glacierは頻繁にアクセスされないデータに最適化されており、低コストで提供されています。
この記事を読んで、S3 Glacierについてしっかりと理解を深めましょう。
S3 Glacierの特徴と利点
S3 Glacierには、データアーカイブに適したいくつかの強力な特徴と利点があります。
1. コスト効率の良さ
S3 Glacierの最大の魅力は、そのコストの低さです。
特に大規模なデータセットを扱う場合、通常のS3ストレージと比較してコストを大幅に削減できます。
これは、企業がデータを長期間保持しつつ、ストレージコストを抑えるための最適な方法です。
たとえば、一般的な企業で行われる大規模なデータバックアップでは、アクセス頻度が非常に低い場合が多く、そうしたデータを頻繁に利用する必要がないため、S3 Glacierの低料金設定が非常に有利に働きます。
主なS3ストレージクラスとS3 Glacierのコストを比較します。
実際の料金は地域や使用量により異なるため、あくまで一般的な比較を目的としています。
ストレージクラス | 保存コスト | データ取り出しコスト | データアクセス頻度 | 取り出し時間 |
---|---|---|---|---|
S3 Standard | 高め($0.023/GB・月) | 無料〜少額(通常は無料) | 頻繁なアクセス | ミリ秒単位で即時アクセス |
S3 Standard-IA | 中程度($0.0125/GB・月) | 高め($0.01/GB以上) | 低頻度アクセス | ミリ秒単位で即時アクセス |
S3 One Zone-IA | 中程度($0.01/GB・月) | 高め($0.01/GB以上) | 低頻度アクセス | ミリ秒単位で即時アクセス |
S3 Glacier | 低い($0.004/GB・月) | 中〜高($0.0035/GB以上) | 非常に低頻度アクセス | 数分〜数時間(取り出しオプションによる) |
S3 Glacier Deep Archive | 非常に低い($0.00099/GB・月) | 高め($0.02/GB以上) | 極めて低頻度アクセス | 12時間以上 |
保存コスト: データを1ヶ月あたり1GB保存するためにかかるコスト。S3 Standardが最も高く、Glacier Deep Archiveが最も安い。
データ取り出しコスト: 保存されたデータを取り出す際のコスト。S3 Standardは通常取り出し無料ですが、GlacierやGlacier Deep Archiveは取り出しコストがかかります。
データアクセス頻度: データがどれくらいの頻度でアクセスされるか。頻繁なアクセスが必要な場合、S3 Standardが推奨され、低頻度のデータはIAやGlacierが適しています。
取り出し時間: データを取り出す際にかかる時間。S3 Standardは即時アクセス可能ですが、Glacierは数分〜数時間かかることが特徴です。
2. 多様なデータ復旧オプション
S3 Glacierには、ユーザーがデータをどのくらいのスピードで取り出したいかに応じて、複数のデータ復旧オプションが用意されています。
標準的な復旧速度、迅速な復旧、そして緊急時の超高速復旧の3つから選択可能です。
これにより、コストをさらに管理しやすくなり、使用状況に応じた柔軟な運用が可能になります。
たとえば、法的要件に基づいて長期間保存しているデータが急遽必要になった場合でも、迅速なデータ復旧を選択することで、短時間でアクセス可能になります。
一方で、すぐにデータを使う必要がない場合は、コストを優先して標準的な復旧プロセスを選択することができます。
3. 安全性と信頼性
S3 Glacierは、高度な暗号化機能を標準装備しており、保存されたデータはすべてAWS側で自動的に暗号化されます。
これにより、データセキュリティが確保され、企業の機密情報や法的に重要なデータも安心して預けることができます。
さらに、AWSのインフラを利用して、地理的に分散されたデータセンター間で冗長化されているため、データの消失リスクも最小限に抑えられています。
S3 Glacierの使い方・設定方法
S3 Glacierを利用するためには、AWSアカウントを作成し、簡単な設定を行うだけです。
以下では、S3 Glacierをセットアップし、データを保存するためのステップを初心者向けに解説します。
1. AWSアカウントの作成
最初に、AWSの公式サイトにアクセスし、アカウントを作成します。
AWSアカウントは、無料で簡単に作成でき、無料利用枠もあるため、S3 Glacierをテスト的に使用することも可能です。
2. S3 Glacierの設定
AWSマネジメントコンソールにログイン後、「S3」を選択し、新しいバケットを作成します。
次に、「ストレージクラス」の設定で「Glacier」を選択します。
これで、そのバケットにアップロードされるデータはすべてS3 Glacierに保存されます。
APIを使用してS3 Glacierにアクセスすることも可能です。
たとえば、AWS CLIを使用してコマンドラインからデータをアップロードしたり、SDKを利用してプログラムから自動化されたプロセスでデータを管理することもできます。
S3 Glacier Deep Archiveとその違い
S3 Glacierには、さらに低コストでデータを保存できる「S3 Glacier Deep Archive」というオプションも存在します。
この2つのストレージオプションの違いを理解することで、最適なデータ保存戦略を立てることができます。
1. コストと使用シナリオの違い
S3 Glacierは、データ復旧に数時間から12時間程度かかりますが、S3 Glacier Deep Archiveではデータ復旧に最大48時間かかることがあります。
しかしその分、ストレージのコストはさらに低く抑えられているため、非常に長期間アクセスする必要がないデータの保存に適しています。
例えば、10年以上保持する必要がある法的なアーカイブデータや、研究データの長期保存にS3 Glacier Deep Archiveは最適です。コストを最小限に抑えつつ、安全にデータを保存できます。
続けて、残りの章を詳しく説明していきます。
S3 Glacierの費用とコスト管理
Amazon S3 Glacierは、低コストの長期保存を可能にしますが、実際にどのような料金が発生するのか、そしてそのコストをどのように最適化できるかを理解することが重要です。
ここでは、Glacierの料金体系を詳しく見ていきます。
1. ストレージ料金の概要
S3 Glacierの料金は、保存したデータの量に応じて課金されます。
例えば、1GBあたりの料金は、標準的なS3のストレージクラスと比べて非常に低価格に設定されています。
長期間にわたってアクセス頻度が低いデータを保持する際、非常に有効です。
- S3 Glacier: 1GBあたりのストレージ料金は、おおよそ0.004ドル/月(価格は地域によって異なる)。
- S3 Glacier Deep Archive: さらに低価格で、1GBあたり0.00099ドル/月程度。
2. データ復旧にかかる費用
S3 Glacierは保存料金が安い反面、データを取り出す際に料金が発生します。
この費用は、どのような復旧オプションを選択するかによって異なります。
- 標準復旧: 最も一般的な復旧オプションで、復旧時間は数時間程度。コストも比較的低め。
- 迅速復旧: 1~5分以内にデータが取り出せるオプション。緊急時に使用することが多いが、費用が高め。
- 大量データ復旧: 100TB以上のデータをまとめて復旧する場合に特化したコスト削減オプション。
3. コスト削減のヒント
S3 Glacierの利用において、コストを削減するためのいくつかの方法があります。
- データライフサイクルポリシーの活用: データを頻繁に利用しない場合、自動的にS3 StandardからGlacierやGlacier Deep Archiveに移行するルールを設定することが可能です。これにより、コスト管理を自動化できます。
- 不要なデータの削除: 定期的にデータの必要性を見直し、不要なデータを削除することで、ストレージコストを抑えることができます。
- データ復旧の最適化: 復旧が必要なデータの量とスピードに応じて最適なオプションを選択し、過度に高い費用が発生しないように注意することが大切です。
S3 Glacierの適用シナリオ
S3 Glacierは、特定のユースケースで最も効果を発揮します。
ここでは、実際にどのような状況でGlacierが有効かについて解説します。
1. バックアップとアーカイブ
企業では、大量のデータをバックアップする必要があることが多く、その多くは頻繁にアクセスされません。
例えば、会計記録やプロジェクトの完了データなど、長期保存が義務付けられているデータは、アクセス頻度が低いため、S3 Glacierを利用して保存することでコストを大幅に削減できます。
2. 法的要件に基づくデータ保持
特定の業界では、データの長期保存が法的に義務付けられています。
例えば、医療データや金融記録は何年も保持する必要があり、S3 Glacierはそのようなデータの保存に最適です。
これにより、企業は安全で信頼性の高い方法で法的要件を満たすことができます。
3. 研究データの長期保存
学術機関や研究所では、大量のデータが発生し、それを長期間保持する必要があるケースが多いです。
S3 Glacierを利用することで、研究データを低コストで長期間保存でき、必要に応じてデータを簡単に取り出すことができます。
S3 Glacierのデータ復旧方法とその注意点
S3 Glacierの大きな特徴の一つが、データの復旧方法が多様であることです。
しかし、復旧には時間がかかるため、事前に計画を立てておくことが重要です。
ここでは、データを取り出す際のプロセスと注意点について解説します。
1. 復旧プロセスの概要
S3 Glacierに保存されているデータを復旧するためには、復旧リクエストをAWSに送信します。
復旧のオプションとして、標準、迅速、緊急の3つがあり、ニーズに合わせて選択可能です。
- 標準復旧: 3~5時間以内にデータが利用可能となります。一般的な用途に最適で、費用も最もリーズナブルです。
- 迅速復旧: 1~5分以内でデータを取り出せるため、緊急性が高いシナリオに向いていますが、費用が高いです。
- 緊急復旧: 数時間以内に大量のデータを取り出す場合に適しています。
2. コスト管理と時間のバランス
データ復旧は、アクセスする頻度やデータの重要度によって、費用と時間をバランスさせることが重要です。
例えば、法的データのように、すぐに取り出す必要がある場合は迅速な復旧が必要ですが、バックアップデータのように計画的にアクセスする場合は、標準復旧で十分です。
S3 Glacierのセキュリティ対策
S3 Glacierは、データのセキュリティにも細心の注意が払われています。
AWSは、業界標準以上のセキュリティ機能を提供しており、企業や組織が機密データを安心して保存できるようにしています。
1. 暗号化機能
S3 Glacierに保存されたデータは、自動的に暗号化されます。
これは、保存データのセキュリティを確保するための重要な手段であり、ユーザー側で特別な設定をする必要はありません。
データは保存時だけでなく、転送時にも暗号化されるため、移動中のデータの漏洩リスクも最小限に抑えられます。
2. IAMポリシーによるアクセス制御
AWS Identity and Access Management(IAM)を使用することで、特定のユーザーやグループに対してS3 Glacierバケットへのアクセス権を細かく制御できます。
これにより、必要最低限のアクセス権を付与し、内部からのセキュリティリスクを軽減することが可能です。
3. データライフサイクル管理
データのライフサイクルを適切に管理することは、S3 Glacierを使用する上でのセキュリティとコスト削減の両面で重要です。
例えば、一定期間保存されたデータを自動的に削除するルールを設定することで、不要なデータが永遠に保持されるリスクを回避できます。
S3 Glacier活用の成功事例
S3 Glacierは、さまざまな企業や団体に採用されており、その成功事例は数多くあります。
ここでは、いくつかの代表的な事例を紹介します。
1. 医療機関のデータアーカイブ
ある大規模な医療機関では、患者データの保存が法的に義務付けられており、かつ長期間にわたってアクセスされないことが多いため、S3 Glacierを利用してデータを安全かつ低コストで保存しています。
これにより、数十年にわたるデータを確実に保持しつつ、ストレージコストを大幅に削減することができました。
2. エンタープライズ企業のバックアップ
大規模なエンタープライズ企業がS3 Glacierを採用し、定期的なバックアップを低コストで実現しています。
頻繁にアクセスされないバックアップデータはGlacierに移行し、必要な時にすぐに取り出せる体制を構築しています。
まとめ:S3 Glacierの効果的な利用法
Amazon S3 Glacierは、膨大なデータを長期間にわたって低コストで保存するための最適なソリューションです。
特に、アクセス頻度が低く、しかし保存期間が長くなるデータに対しては、コスト効率が非常に高く、安全性も確保されています。
企業や個人が必要に応じてデータを迅速に取り出せるオプションも提供されているため、ビジネスニーズに合わせて柔軟に活用できます。
1. S3 Glacierを利用すべき状況
- 長期的なデータ保存が必要な場合:法的な要件に基づくデータの保持や、アクセス頻度の低いバックアップデータなど。
- コスト効率を重視する場合:膨大な量のデータを保存する際に、S3 GlacierやGlacier Deep Archiveを活用することで、ストレージコストを大幅に削減可能です。
- セキュリティが重要な場合:AWSの強力なセキュリティ機能により、機密データの安全な保存が実現できます。
2. ベストプラクティス
- データライフサイクル管理の活用:データの使用状況に応じて、自動的にS3 StandardからS3 GlacierやGlacier Deep Archiveに移行するルールを設定することで、コストを最適化することが可能です。
- 復旧速度に応じた計画的な運用:データの必要な復旧速度に応じて、標準、迅速、または大量復旧オプションを選択し、適切にコストと速度を管理することが重要です。
- 定期的なセキュリティレビュー:IAMポリシーやアクセス制御の設定を定期的に見直し、内部・外部からのセキュリティリスクを管理しましょう。
3. S3 Glacierを導入すべき企業・個人への推奨
- 大企業や中小企業:膨大なデータを長期にわたって保持しなければならない企業にとって、S3 Glacierはストレージコストを抑えるのに最適です。また、法的規制に対応したデータ保存にも有効です。
- 個人:大量の写真や動画など、個人で所有するデータのバックアップとしても、S3 Glacierは低コストで安全なソリューションを提供します。
さいごに
Amazon S3 Glacierは、ビジネスのデータ保存ニーズを効率的にサポートしながら、安全性とコストの両立を実現するサービスです。
長期的なデータ保存が必要なシナリオで特に有効であり、企業のデータ戦略の一環として積極的に取り入れるべきストレージオプションといえるでしょう。
ぜひ、Amazon S3 Glacierを導入し、その効果を実感してみてくださいね。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
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